旅に出る理由なんて何ひとつない(四国遠征後編)
8、9日目
少し奮発したリクライニングシートから起床して、昨日の号泣で腫れた顔を洗った。
この日は昼から予定があった。
実は昨日アカメを釣る前に、Nくんを昼飯に誘っていた。
ここまで釣れていないしお互い旅先で1人、傷の舐め合いでもしようじゃないかと思い誘ったが、直後に釣ってしまったのはご愛嬌…。笑
そして、ここで嬉しいゲストが登場した。
モンスターキスのテスターをやっているFさんが高知に来ていた。
昨晩、2人は釣り場で偶然会ったらしく(2人は元から面識あり)NくんがFさんもご飯に誘ってくれた。
Fさんは怪魚界隈では有名で、雑誌や小塚さんのSNSなどにも度々登場する方で僕も以前から知っていた。
歴戦のオーラが体から漂っており、めちゃくちゃ年上だと思っていたが一つ上だった…。笑
そんなツワモノ2人とランチに行くことに。
またチキン南蛮を食べてしまった。笑
もちろん名物カツオのたたきも食べた。
Fさんは昨年からアカメ狙いに本腰を入れて、今年は5回目、昨年は10回東京から来ているとのこと。
それでもキャッチ数は2本。難しいんだなあ。
そしてFさんから、
「オレがいつもやるポイントがあるんだけど、もし良ければ3人で今日明日とやらないか?」と。
憧れの方からのお誘い、何も断る理由はなかった。
ランチを済ませ、3人でエサの確保に向かった。
Fさんは昨年から通い込み、ボラを生かす道具をこちらの知人宅に保管してもらっているらしい。
さすがのバイタリティだ。
しかし、レンタカーに魚を入れまくるのはカオスだった。笑
Nくんに教えてもらい、ボラの掛け針にオモリをつけるチューニングを施し、見えるボラをシューティングした。
これが見事にハマり今まで苦しんだのが嘘のように獲れた。
カラオケボックスやファミレスの裏を流れる川をみんなで釣り竿を持って歩き回りボラを狩りまくるのは明らかに異質な光景だったが、必死だった。笑
エサを確保しFさんのポイントへ向かった。
各々仕掛けにエサをつけて流し、アタリを待った。
飯や酒を買い込んで、アタリを待ちながら色んな話を聞かせてもらった。
経験値が格段に上の2人の話はとても刺激になったし面白くとてもいい時間だった。
しかし、その楽しさとは裏腹にアカメからの反応はなかった。
Nくんの竿に一度反応があったが、針がかりまでは至らなかった。
ここまで暖かい日が続いていたが、この日くらいから少し空気が変わってきたように感じた。
温暖な四国といえど季節は11月、夜は寒い。
しかし、海外経験者たちのタフさはすごい。
Fさんはレモンサワーをカパカパと煽り、寝袋に入りものの数分でいびきをかいて爆睡。
Nくんも夜通しアタリを待った後、朝方から昼過ぎまで地べたで爆睡していた。
僕はあまり眠れなかった。
というより、この楽しい時間を睡眠に割くのがもったいなかった。
空いた時間もひたすらにルアーを投げ続けた。
翌朝、monster baseで買ったメガドックを投げていると、エサを泳がせていた竿からラインが沖へと走っていった。
何度かアカメとファイトをしていたため、恐らくアカメではないことは察しが付いた。
しっかりとラインを巻き取りアワセを入れた。
ノッた!!
アカメではないがデカいぞ?
ウトウトする2人を大声で起こし、タモを準備してもらった。
ブリだ、95cmあった。
宮城でこんなのが陸っぱりから釣れたら大騒ぎだが、狙ってるのはアカメだったからかあまり嬉しさもなくファイトもあっさりしていた。笑
嬉しさよりもバラしたアカメはどれだけデカかった?という恐怖がまた湧き上がった。
このブリは料理人のNくんに捌いてもらい、お世話になりっぱなしのTさんに後ほど差し上げた。
このブリだけで、その日も特に反応はなかった。
Fさんは今日の夜行バスで東京に戻るとのことだったので、夕方にお別れをした。
短い時間だったが非常に濃い時間だった。
Nくんも次の日の夕方の夜行バスで帰るとのことだったので、僕も翌日までやり切って高知を後にすることを決めた。
夜までNくんと共に粘ったが反応はなかった。
僕はさすがに車中泊とネカフェのソファーでの生活に体がこたえてきたので、その日の晩は市内のホテルに泊まって体調を整え、溜まった洗濯物なども片付けることにした。
しかし、チェックイン後ベッドに座りそのまま横になり気付いたら眠ってしまっていた。(せっかくのホテルなのに布団で寝ていない)
10日目
いよいよ高知最終日だ。
昼前からNくんと合流し、彼が乗る予定の夜行バスの時間まで粘ることにした。
ここまで奇跡的に快晴の日が続いていたが、この日はあいにくの雨。
昨日までの2日間はFさんのポイントで粘ったが、最終日は僕が何回もバラした川に戻ってきた。
雨が降る中エサを投入したが、
結局何も起こらずゲームセット。
やはり僕が釣った日あたりで良い潮周りが終わっていたのかもしれない。面白いように反応がない日が続いた。
Nくんと終わりだねーなんて話をしていたところ、
「おーーーーーーい!!!!」
と背後から聞き覚えのある声が。
あの2人だった。笑
雨の中走って駆けつけてくれた。
アカメが釣れたことを報告すると、
写真を見て「すげええええ!」と言ってくれた。
今日高知を去ることを伝えると、一緒に写真を撮って欲しいと言われ、これオレのスマホなんだけどなと思いながら写真を撮った。笑
そして、最後に握手をした。
男の子の方は、「オレも釣り頑張る!!」と言ってくれた。
見えなくなるまで手を振って、
雨の中「またねー!」と遠くから叫んでいる。
この前と同じ「またね」でも、今度は何となく"また"がある気がしてしまった。
後日、ことの経緯を書いて、メッセージを添えた写真を同封して彼らの小学校に郵送した。
特段返事はなかったが、彼らの元に届いていると嬉しいなと思う。
小学生たちと別れ、Nくんとも最後に挨拶をして高知を後にした。
1番お世話になったTさんも釣りの途中に顔を出してくれたので、今日で帰ることを伝えた。
メーターオーバーを釣ることが出来なかったため
また必ずリベンジに来たいと思う。
Tさんからは、「いつでも帰ってこいよ!!!」と熱いメッセージをいただいた。
本当にどこまでも良い人だった。
日が落ちて雨がさらに激しくなってきた。
カツオのたたきの定食に舌鼓を打ち、この旅を1人振り返った。
アカメを釣ったことだけでなく、多くの出会いや人の温かさに触れたりいろんなことを経験した。
一コマ一コマ思い出すだけでウルウルくるぜ。
定食を食べ終え、車を走らせた。
実はこの旅、
アカメが釣ることが出来た時の裏テーマがあった。
コイツ、コブダイだ。
過去のブログでも書いたが、社会人2年目の後半に一人で淡路島に行って挑戦したが撃沈した。
もしアカメが釣れれば、帰りに淡路島を通ってリベンジをしようと決めていた。
雨がかなり強く、その日の夜は徳島と淡路島を結ぶ鳴門海峡大橋が通行止めになってしまった。
ドライバーズハイに任せて淡路島まで夜中に行ってしまおうと思っていたが、少し休めと言う神からのお告げだと言い聞かせその日は徳島市内のネットカフェに泊まった。
11日目
通行止めがいつ解除になるかも分からなかったため、アラームはかけず寝れるだけ寝た。
起きたのは10時過ぎ。通行止めの解除を確認してネットカフェを出発。
昨晩の猛烈な雨は止んだが、かなり強い西風が残っている。
牡鹿半島で鍛えた風裏探しからすれば、淡路島クラスの大きな島で風が当たらない場所を探すのは容易だ。
地図をサラッと眺めて良さげなポイントをいくつか見に行った。
明日までの2日間でケリをつけたいと思っていたため、この日は焦らず腰を据えて出来る場所を探した。
何箇所か周り、ここかなと思うところでやってみたものの反応はない。
ちなみにアカメのタックルを流用してPE8号に100lbのリーダー。
大きめのカン付きの針にスーパーで売っているブラックタイガーなどのエビをオモリを付けて沈めるいたってシンプルなものだ。
釣りの最中、犬の散歩をしていたおじさんが話しかけてくれた。今回はこの手のおじさんの一言にだいぶ助けられている。
この人も淡路島でいろんな釣りをやりこんでいるようで、コブダイについてもいろいろ教えてくれた。
明確に"ここが釣れるよ!この仕掛けがいいよ!"のように押し付けず、"こういう場所で釣れることが多い"というこちらのポイント探しの楽しさの芽を摘まない諭し方をしてくれたいい人だった。
その方から教えてもらったヒントを頼りに作戦を練り直して、翌日は3年前に来た時にやったポイントを選んだ。
夕方以降は、島内で風呂や飯を済ませ翌日のポイント近くに車を停め車内で寝た。
12日目
朝方少し雨がぱらついていた。
昨晩、スーパーでレジのバイトをしている女子高生くらいの若い女の子に異質な目で見られるほど買い込んだエビ(バナメイエビ、ブラックタイガー、撒き餌用に冷凍のむきエビ、計3,000円超)を持ってポイントへ。
足元には大量のスズメダイ、その中に小さいが2〜30cmほどのコブダイも混じって見える。
撒き餌を投げまくりスズメダイを寄せて、その中を一気に重いオモリで本命のコブダイが下にいると信じてエサをぶち込む。
反応は早かった。
コンッ!コンッ!
と小気味良く竿が動く。
どんなアタリ方をするのかイマイチ分からなかったので、とりあえず思い切りフッキング。
トルクがあってよく走ったがすぐに浮いてきた。
ロリコブダイだった。
とりあえずはご対面出来た。
このサイズなのに、この引きか…。
成魚のパワフルさを想像するとムラムラしてきた。
また同じようにエビを投入する。
するとまた同じような、小気味良いアタリが入る。
また、あのサイズか…。
フッキングをする。
あれ?重い…。
竿先に伝わる明らかにさっきのとは違う重量感。フッキング時に時が止まるわかる人にはわかるあの感覚だ。
ん?おえ????
グン!グン!グン!とトルクフルな引きで引っ張っていく。
前日漁港を散策中にコブダイ狙いのおじさんが、ロッドをロープで固定してるのを見てやり過ぎだろと思ったがこの瞬間賛成派に傾いた。
猛烈なパワーと真っ向勝負。
さっきのヤツとは全然違う…。
落ち着いて浮かせて何とかネットイン。
そして小さくガッツポーズ。笑
64cm、もっともっとデカくなるらしいが初めてにしては上出来でしょう。
にしてもいい顔してやがる。笑
後日写真をSNSや関係各位に見せると、"嫌いな上司にソックリ''、"親戚にこの顔のおじさんいる"という何とも言い難いコメントが相次いだ。
狙ってはいたが、こんなにあっさり勝負がつくとは思わず少し腰が抜けたような感覚。
フワフワした気持ちで写真を撮っていると、遠くから走ってくる人が。
遠目で僕のファイトを見ていたらしく、大物なのでは?と思い駆け付けてくれたようだ。
ガッツポーズ見られてたの恥ずかしい。笑
記念に一枚撮ってもらった。
にしてもこの人、写真上手いな。笑
エサが尽きるまで、と思ったがエサ取りの小さい魚が多く午前中のうちにあっけなく無くなった。
しかし、リベンジは成功。
あっけなく勝負はついたが大満足の釣果だった。
その後は昼過ぎから、島内の温泉施設に行き旅の疲れを癒した。
コブダイも無事釣り、この旅の全釣り日程は消化。
その晩は大阪に住む地元の同級生とその奥さんと一緒に焼肉を食べに行った。
「泊まって行きなよ」とも言われたが、これだけの期間まともに布団で寝ていないため、今ここで寝てしまったら起きれなくなる&とてつもなくイビキをかいてしまいそうだなと危惧して、夜中に走れるところまで走ることにした。
2人に別れを告げ、また車を走らせる。
愛知、三重と抜け静岡に入ったところで力尽き、
浜松のSAで眠りについた。
13日目
この日は特段予定はない。
朝起きてから、行きとは逆の東京方面を回って仙台へ向かった。
富士山を横目に走る。
学生時代、群馬からの帰省の道中に栃木の上河内SAでよく食べた豚嘻嘻(とんきっき)の餃子定食。
所詮SAの飯屋と思うなかれ、普通に美味い。
懐かしの味を食べたり、休み休み帰り午後には仙台に着いた。
蓋を開ければ全日程で23都府県を縦断し往復で2,500km。
無事事故やトラブルなく完走することが出来た。
この後数日は久しぶりの布団を噛み締めるように毎日12時間近く寝ていた。
エピローグ的な
最初はただただ"アカメを釣りたい"という気持ちだけで勢いで行った四国だったが、結果的にアカメが釣れて、コブダイやブリ、その他見慣れない魚たちにもたくさん触れることが出来た。
正直釣果に関しては出来過ぎだった。
そして、それだけでなくTさんをはじめ沢山の人の温かみに触れ、さらには仲間が出来て、帰る場所もひとつ増えた。(Tさんにはお世話になり過ぎたので後日牛タンの詰め合わせをこれでもかと送った)
文中には登場しなかったが、釣りをしていると声をかけてくれる地元の方たちもたくさんいて、こんなご時世の中に遠路遥々来てることに対しても怪訝そうな顔をせずに毎日話しかけてくれた。
高知県には"高知家"という県を挙げてのスローガンがあるようで、その名の通り"県民皆家族だぜ"というのがヒシヒシと伝わってきたし人がスレてない。
優しさに触れ、仲間もできて刺激もあり精神的にもかなり充電が出来た旅だった。
そして、"釣りの素晴らしさ"を改めて感じた。
(Fさんの先日のブログともだいぶ被っていたが)
あまり神話的な話は好きではないが、やはり"運命"のようなものを感じざるを得なかった。
アカメを釣るまでは日に日に答えに近付いている気がしていたが、結果的には思ってもいない形で"釣れて"くれた。
結局は魚のことなんて何も分からないし、
だから面白いと思う。
僕は、最終的には自分じゃどうしようも出来ないというところが釣りの好きな理由の1つだ。
部活や勉強、仕事や恋愛もそうかも知れない。
努力をして自分のパフォーマンスを発揮して結果を出す。社会の中で求められる大事なスキルだが、こと釣りにおいては少し違うと思っている。(もちろんそれが仕事の人もいて一括りには出来ない)
最終的には答えは水の中にしかなく誰も分からない。釣れるときは釣れるし、釣れない時は釣れない、そんな最後は"運"みたいなところが、潔く、ある意味自分に言い訳を作れるから気楽に思える。
TさんもFさんもよく"最後は運"というフレーズを使っていたのが印象に残っている。
SNSで得意げに、"何で釣れた"だの"こうすると釣れる"だの書いてマウントを取っている人もよく見かけるが、釣れてるシーンだけを切り取れば何とでも言えるし、そんな人たちだって失敗を重ねているはず。
自分なりのメソッドみたいなのはもちろんあるしそれを構築していく楽しさも醍醐味の1つだが、僕はやはり"最後は運"という気持ちを常に心に持って、人の釣果を見てヒリヒリした気持ちにならず気楽に釣りをしたいなと改めて思わされた。
Tさんはよく仕事柄お客さんに、「どうしたら釣れますか?」と聞かれることが多く、その際は「ゴミを拾え」とアドバイスをするようだ。
それもまた"真"だなと思う。笑
"良い風が吹くように、やれることはやる!"
自分自身そういう心持ちはとても大事だなと改めてこの数日で気付かされた。
まあ、書き始めればキリがないが、この旅を通して少し成長出来たなと思う。
この1匹で終わりではない。
むしろ、この1匹がスタートになったと思う。
アカメが紡いでくれた縁を大事するためにもまた近いうちに高知に帰って、豊かなフィールドで熱い仲間たちと赤く光るあの目を拝んで心を震わせたい。
そして、アカメだけでなくいろんな所に旅に行きいろんな魚を追い求めたいな改めて強く思う。
それも"いつか"じゃなく"行ける時に行く"。
間も無く誕生日を迎えると27歳になるが、思っていたより人生は早いし人は簡単に死ぬんだなと最近すごく思う。
小塚さんが以前仙台で酔っ払いながら、
「"時間"は買えるけど、"時代"は買えないからな。」と言っていた。それに尽きる。
この言葉は僕の原動力になっているし、これからも胸に強く刻んで動いて行きたい。
やべやべ、かっこつけ過ぎたかな。笑
と、ここまで"くるり"の『ハイウェイ』を聴きながら感傷的に書き連ねました。(タイトルもそこからもらいました)
故に過去一番の長編になってしまったが、ここまでお付き合いありがとうございました。
来年もよろしくお願いします!
皆様良いお年をお迎えください!
それでは〜